宇宙用有機材料アウトガスデータ集(第1章)

1.まえがき

2.アウトガス測定設備

3.アウトガス測定の概要

4.他機関の取得したデータとの比較

5.データ適用

6.アウトガス測定写真集

1.まえがき

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、宇宙用有機材料から放出されるガスについて米国航空宇宙局(NASA)が推奨している試験方法 ASTM E 595(STANDARD TEST METHOD FOR TOTAL MASS LOSS AND COLLECTED VOLATILE CONDENSABLE MATERIALS FROM OUTGASSING IN A VACUUM ENVIRONMENT)を参考にして、昭和53年度〜54年度(宇宙開発事業団(NASDA)当時)にかけて、アウトガス測定装置の国内開発を行い、筑波宇宙センター検定標準棟内に設置し、昭和55年度から本装置による標準測定方法の確立に取組み、種々の材料について測定を実施し、昭和56年度に標準測定方法を確立した。昭和56年には本装置を新築の電子機器・部品試験棟内のアウトガス測定室に移設すると共に、サンプル重量測定用に高精度のミクロ電子天秤を導入し、本格的なアウトガス測定を開始した。装置の老朽化に伴い、平成6年度にアウトガス装置を、平成9年度にミクロ電子天秤をそれぞれ更新した。本アウトガスデータ集は、昭和55年9月以降の測定データを取りまとめたものであり、平成3年3月25日にNASDA-HDBK-1として初版を発行し、以後、追加データはNOTICEとして配布している。しかし、装置更新に伴う仕様や手順の変更、膨大な蓄積データのデータベース化等を反映するため、第1章及び第2章の全面差替えが必要となったため、平成11年度はA改訂版として配布する。本アウトガスデータ集を、宇宙開発を含む様々な分野で引続き御活用下さるようお願いする。なお、宇宙航空研究開発機構では、 JAXAホームページ内で、アウトガスデータを含む「材料データベースシステム」*を公開しているので、ご利用下さい。
 *:「材料データベースシステム」については、http://matdb.jaxa.jp/ に接続されたい。

2.アウトガス測定設備

 宇宙航空研究開発機構の所有するアウトガス測定装置(平成6年度整備:宇宙開発事業団当時)に関する設備の概要を下表に示す(平成11年4月22日現在)。 
機器名 性能・機能 備考

A.アウトガス測定装置
 (ASTM E595-93準拠)
 
(注)
本装置は平成6年度に更新整
備し、平成7年度以降のデー
タ取得に使用中である。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 


1.真空排気系

1.1 到達真空度
    6×10-6 Torr 以下

1.2 排気ポンプ
(1)油回転ポンプ
   排気量:330L/min
(2)ターボ分子ポンプ
   排気量:500L/sec

1.3 真空度測定
(1)ピラニ真空計
(2)電離真空計

1.4 真空槽
    140φ×700H

1.5 運転
    コンピュータによる自動運転
 

2.試料測定系

2.1 測定サンプル室
    通常測定用(φ26):15室
    標準試料用(φ26): 3室
    大型試料用(φ40): 3室
    膜圧測定用(φ26): 1室
    IR測定用(φ26): 2室

2.2 試験実施可能件数
    5試験を同時に実施可能

2.3 加熱棒
    通常125℃

2.4 凝縮用冷却
    通常25℃
 
 

2.5 膜圧計(水晶発振式)
    表示範囲:0〜999.9 k

2.6 四重極質量分析計
    型式:MSQ-400
    質量範囲:1〜400


無負荷、非加熱、無
試料の場合。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

ASTM E595では、
試験はn=3で実施
るため、通常測定用
サンプル室(15室
)を全て使用した場
合、5試験が同時に
実施可能である。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 


B.秤量装置
 

(注)
本装置は平成9年度に更新
整備し、平成10年度以降
のデータ取得に使用中であ
る。


1.ミクロ電子天秤
  型式:MT-5(METTLER)
  最小表示:1μg
  最大計量値:5100mg
 
 

 


 
 
 
 
 
 

 


C.再凝縮物分析
 
 
 
 
 

 


1.赤外分光光度計
(1)平成11年3月まで
  型式:A-302(日本分光製)
  波数:5040〜330 cm-1
(2)平成11年4月から
  型式:Supectrum One(パーキンエルマ製)
  波数:7800〜350 cm-1
 

 
 
 
 
 
 

 


D.その他
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 


1.超音波洗浄器
  器具洗浄用
 

2.真空乾燥機(150℃まで加熱可能)
  洗浄品及び乾燥剤の乾燥用
 

3.デシケータ
  試料等の保管用

 


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

3.アウトガス測定の概要

 宇宙航空研究開発機構で実施している、アウトガス測定の概要を以下に示す。 

3.1 試験概要

(1)測定試料

 アウトガス測定の対象材料は、主として有機材料であり、通常は材料を1.5〜3mm角に切断したものを試料としている。しかし、切断・加工の困難なセラミックス等の無機材料、小型の電子部品等の測定を非標準試験として実施することも可能である。
 尚、測定試料の調整方法については第3章参考資料(X)「アウトガス測定用サンプルの準備要領」を参照のこと。

(2)測定項目

 アウトガスデータとして測定する項目は、TML(質量損失比)、CVCM(再凝縮物質量比)及びWVR(再吸水量比)の3項目である。この項目はいずれも試験環境に曝される前の質量と試験環境に曝された後の質量の比を百分率(%)で求めている。また、測定結果は、同時に試験した試料3個の平均値としている。

(3)試験環境

 試料は、以下の試験環境に曝す。

3.2 アウトガス測定手順概要

 アウトガス測定手順は、JAXA文書GDM-97003「アウトガス測定手順書」に規定しており、その概要を以下に示す。 

(1)試料の準備

a.測定試料を1〜3mm位の大きさに切断する。
b.アルミボートを成形する。アルミボートは1試料につき、3個準備する。
c.アルミボート、コレクタプレート及び測定装置の部品を超音波洗浄する。
d.洗浄した部品等を加熱乾燥機で乾燥させる。e.アルミボート及びコレクタプレートをデシケータに入れて保管する。 

(2)測定装置の準備

a.アウトガス測定装置のベルジャを開放し、加熱棒、冷却板等を洗浄液で洗浄する。
b.ベルジャを密閉し、7×10−3Pa以下、150℃で4時間真空排気を行う。

(3)測定1

a.ミクロ電子天秤でアルミボートの秤量を行う。
b.秤量を終えたアルミボートに試料を200〜300mg入れる(1試料につき3個)。
c.アルミボートに入れた試料を23±1℃、50±5%RHの環境で24時間保管する。
d.24時間後、ミクロ電子天秤で試料の初期重量を秤量する。
e.続いて、コレクタプレートの初期重量を秤量する。 

(4)測定2

a.測定1終了後、アウトガス測定装置のベルジャを開放し、冷却板にコレクタプレートを取付ける。
b.凝縮物の赤外分光特性を測定する時はKBrセルを、凝縮物の堆積状況を測定する時は膜圧センサを取付ける。
c.加熱棒の試料室に材料を挿入し、ネジ蓋を取付けて、ベルジャを密閉する。
d.アウトガス測定装置を真空度7×10−3Pa以下、加熱温度125±1℃、冷却板温度25±1℃及び保持時間24時間で運転する。
e.24時間運転終了後、真空排気及び加熱を停止し、ベルジャ内に乾燥窒素ガスを導入して、加熱棒が50℃以下になるまで冷却する。
f.アウトガス測定装置のベルジャを開放し、試料、コレクタープレート、KBrセル、膜圧センサを取外す。分光分析用のKBrセルは赤外分光光度計で評価する。
g.取外した試料及びコレクタプレートの試験後重量をミクロ電子天秤で秤量し、TML(質量損失比)及びCVCM(再凝縮物質量比)を算出する。
h.ベルジャを密閉し、アウトガス測定装置内を真空に保持する。
i.測定後、試料を23±1℃、50±5%RHで24時間保持する。 

(5)測定3

24時間後、ミクロ電子天秤で試料の吸湿後の試料重量を秤量し、WVR(再吸水量比)を算出する。

(6)報告書作成

取得したデータに基づき以下の項目を計算し、アウトガス測定報告書を作成する。
a.TML(Total Mass Loss):質量損失比(%)
[(試験前試料重量−試験後試料重量)/試験前試料重量]×100  
b.CVCM(Collected Volatile Condensable Material):再凝縮物質量比(%)
[(試験後コレクタプレート重量−試験前コレクタプレート重量)/試験前試料重量]×100
c.WVR(Water Vapor Regaind ):再吸水量比(%)
[(吸湿後試料重量−試験後試料重量)/試験前試料重量]×100

4.他機関の取得したデータとの比較

  JAXAのアウトガス測定装置で取得したデータと他機関で取得したデータとの比較を示す。

(1)昭和55年〜平成6年度運用の装置

 昭和56年1月に、NASDA信頼性管理部の協力を得て、NASA Goddard Space Flight Centerとの比較試験を実施した。NASDAが入手した5種類の試料をNASAに送付し、双方で測定した結果を下表に示す。 
 この結果、双方の取得データはほぼ同水準であると判断した。
  TML(%) CVCM(%) WVR(%)
材料名
NASA
NASDA
NASA
NASDA
NASA
NASDA

マイラ

0.25

0.24

0.00

0.00

0.20

0.15

ケブラ29

2.18

2.02

0.02

0.27

1.77

1.55

テフロン

0.01

0.02

0.00

0.00

0.00

0.04

エポキシ

1.07

1.20

0.01

0.04

0.30

0.17

シリコーンSH1840 

1.57

1.74〜1.90

0.71

0.66〜0.82

0.01

0.00〜0.05
注)NASDAでは昭和56年当時、シリコーンSH1840を標準試料として使用しており、取得データ数が多いため、範囲(XXX〜XXX)で表示した。 

(2)平成6年度更新の装置

 ASTM(米国材料試験協会/American Society for Testing Materials)が1997年9月から1998年1月にかけて実施したアウトガス測定装置(ASTM E-595準拠)の世界規模でのRound Robinに宇宙開発事業団も参加した。実施結果については、1999年1月現在、ASTMにおいて集計・評価作業中であるため、中間集計結果を以下に示す。この結果、NASDAの取得データが他の外国機関のものと同水準にあることがわかる。
 
TML(%)
CVCM(%)
WVR(%)
材料名
NASDA
Overall
average 
Overall
STD DEV.
NASDA 
Overall
average 
Overall
STD DEV.
NASDA
Overall
average 
Overall
STD DEV.

RT-555SHRINK
TUBING

0.208
 

0.236
 

0.034
 

0.003
 

0.023
 

0.018
 

0.042
 

0.057
 

0.020 
 
RSE13329 Silicone Wire
Insulation

1.039
 

1.135
 

0.232
 

0.275
 

0.275
 

0.123
 

0.016
 

0.064
 

0.082
 

CV-1142 Silicone

0.388
 

0.404
 

0.052
 

0.017
 

0.032
 

0.030
 

0.040
 

0.081
 

0.3314
 

CV2500 
Silicone Nusil 

0.149
 

0.145
 

0.028
 

0.007
 

0.007
 

0.009
 

0.003
 

0.013
 

0.016
 

5.データの適用

 データの適用にあたっては、材料のスクリーニングの目的として用いられていた「TML:1.0%以下、CVCM:0.1%以下」のみでの判断はせず、使用環境、使用量、汚染源と被汚染面との位置関係などを考慮し、システム全体でのアウトガスの影響を評価し、判断する必要がある。
 特に多量に使用する材料、アウトガスによる汚染に敏感な光学システム付近で使用する材料等については注意すること。

 

6.アウトガス測定写真集

写真1.アウトガス測定装置外観

写真1.アウトガス測定装置外観
 

写真2.加熱棒へのサンプル取付作業

写真2.加熱棒へのサンプル取付作業
 

写真3.加熱棒及び冷却板

左側が加熱棒で、サンプルは穴から入れた後、蓋をする。右側は冷却板を裏面から見たところで、コレクタプレート取付用のネジ穴と冷却水用銅管が見える。
写真3.加熱棒及び冷却板
 

写真4.加熱棒のサンプル穴に蓋をするところ

アウトガスは、反対側から放出される。再凝縮物を堆積させるコレクタプレートは、アウトガスが放出される穴のそばに取付けられる。
写真4.加熱棒のサンプル穴に蓋をするところ
 

写真5.ミクロ電子天秤

写真5.ミクロ電子天秤  
 

写真6.FT-IR(赤外分光光度計)

写真6.FT-IR(赤外分光光度計)
 

写真7.測定サンプル

TML測定後、サンプルはこの状態で24時間保管され、WVR測定が行われる。
写真7.測定サンプル
 

写真8.コレクタプレート

写真8.コレクタプレート再凝縮物が堆積したものも観られる。
 

写真9.アウトガス秤量作業

 写真9.アウトガス秤量作業 
 

写真10.再凝縮物の堆積したコレクタプレート

写真10.再凝縮物の堆積したコレクタプレート